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□ 『思慮分別ある混沌へ』 ロード・ブラックソーン著 □

我がブリティッシュ王と、私が、仲違いをしているなどと思わないで欲しい。
我々は親友であるし、夕べにはチェスを行い、明け方までこの国の行く末について案じるほどの交わりを続けているのだから。

本当の友情とは、互いの考えを尊重しあうものだ。
王の打ち出した八徳思想を認めるのも、民衆に道徳的な行いを促しているからである。
しかし、公費を募って八徳の神殿を建立するということは、また別の問題と考える。

これは財務の問題ではない。倫理道徳に生きる人としてあるべき、もっとも理知的な意見の不一致なのだ。
つまり、どのような道徳観念の中にあっても、自由な意志決定こそがもっとも尊重されるべきことである。
殺人者を咎めぬ者はいないだろう。
しかし、殺人という行為を行わなければならない場合において、それが道義的かと問えば、その答えは難しい。

諸君、つまり私が言いたいことは、平たくいえばこうである。
どのような道徳といえども、納得させなければ人を動かすことは出来ず、それが価値あるものだと示すものは、自由意思による決定なのだ。

我が王の推す八徳思想は、実際のところ、これまで培われた諸々の道義的な集大成であり、私も異存はない。
しかし、それが国民の多様性を奪い、行動を制限してしまうことに、私は異を唱えるものだ。
親愛なるロード・ブリティッシュ陛下には、この無礼をお詫びする。
しかして、私はこの思慮分別ある混沌への誘いを公布するものである――

汝らが個であることを讃えよ。
自らの選択によって行動せよ。
法律の、規則の、判決の、徳目の、その理由を疑えよ。

――馬鹿げた話だが、あの八徳思想はデーモンが我が王に植え付けた、偽りのものであるかも知れないし、徳の神殿は世界を破壊するための偽りの計画であるかも知れない。
どのようなことも、考え、疑い、最後には自分自身で判断しなければ、答えを知ることは出来ない。
これらの言葉を、哲学的な考えの一つとして智慧の求道者へと送りたい。
これは、私やロード・ブリティッシュ陛下が、今もっとも関心を寄せている問題でもあるからだ。