名前はリーラであったと、彼女は言い、その髪はつる草と茨とで粗雑に編まれていた。
彼らが彼女の頭を傷つけないことに驚いたが、私がそれを訊くと、彼女は何も言わずに再び森を見回しはじめる。
私の腕はロープで縛られていたが、彼女のその亜麻色の――泥と葉でぼさぼさな――髪に手を伸ばし、綺麗に梳いてやりたかった。
その夜、キャンプの炎に照らされている間、彼女は自分がトリンシックの生まれであると話してくれた。
彼女はオークたちに連れ去られ、そのまま育てられたと言う。
しかし、私はその話が途方もないことに思えた。
多くに知られている限り、オークたちは人肉を好んで食べると云われている。
この事を彼女に告げると、彼女は声を上げて笑い、自分もそうであると言う。
彼女はしばしばキャラバンを襲っては、抵抗できない彼らから掠奪を繰り返していたようだ。
此処にいたって、私は自分の命を危ぶみはじめた。
彼女の微笑が、おおよそ人間の持ち得ない歯牙を剥いているように見え、また先のオークの話がいっそうの恐怖を引き立て、私を心底こごえさせている。
私を食べるつもりなのか、と震えながら訊ね、答えを恐れた。
彼女は首をひねり私を見た。
意味の分からない言葉を投げかけられた野生動物のようで、一点を見つめる彼女の視線は、まるでアビイスの深遠を瞥見するかのようだった。
彼女はぶつぶつ言うと、いいえ、と、子供を思わせる声で答える。
「いいえ、お前はあの子を思い出させる、あたしが連れられる前、子供の頃、あの街で一緒に遊んだ男の子。
「彼も砂色の髪の毛だった。
「子供の頃お互いに手をつないだりさ、甘い幻想を抱いていたの。
「ジェイフェスって言ったっけ。
明くる朝、彼女は私を解放した。
荷物と衣服は剥ぎ取られたものの、次は無いからと言い、森を走り抜けるように命令する。
私は夢中で走り、みみず腫れや引っかき傷を体中に作りながらもユーの街道までやってこれた。
そしてその後、彼女を見ることは終ぞなかったのだ。
私はたまにジェイフェスという少年や、トリンシックに住んでいたという――彼が覚えているのかどうかに係わらず――彼女を考える。
私の知るジェイフェスとは、去年オークとの戦闘で斃れた聖騎士団グランドマスターで、たしかに砂色の髪を持っていた。
しかし、私は人肉の味を知る残忍な彼女と、誉れ高き彼を結びつけて描くことが出来ない。
運命とは往々にして皮肉なものである。
彼を覚える女性の名誉の為に戦い続けた聖騎士、彼は知らずのうちに、彼女が父と呼ぶオークに討ち取られていたのかも知れないのだから。