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□ 裏聖職者にうの冒険 第二章 □

ジェロームはブリタニアで最も南に位置する街だ。
戦士の街と一般に知られているが、実際には喧嘩上等の街といった方が正しい。
ムーンゲートを出たニウと発泡斎がまず目にしたのは大きな酒場であった。
中から聞こえてくるのは怒号と悲鳴、皿の割れる音、椅子やテーブルの壊れる音……

「何だか騒がしい町だな。

と、ニウ。

ニウたちは王様から二つの依頼を受けてここに来た。
ひとつはジェローム北に出没する三すくみの怪物を生け捕りにすること、もうひとつは行方不明の王女様を探し出すことだ。
そしてこれらは互いに無関係ではないらしい。

「酒場の隣りはヒーラーか。こっちも怪我人で賑わってるな。

そう言うニウに発泡斎が答える。

「北の島は無人島じゃから、今日はここで宿を取ることにしよう。
「明日は仲間をスカウトするんじゃ。

「その前に金をおろさないとな……
「おーい、兄ちゃん、銀行はどっちだ?

ニウは酒場から出てきた男に声をかけた。
男は持っていた酒を一気に飲み干したが、酔っている気配はない。

「俺も今から行くところだ。ちょうどいい。案内してやろうか。

ニウたちは男についていくことにした。
ヒーラーハウスを右に曲がると闘技場だ。

「ここは決闘場だ。喧嘩程度じゃ気が済まない奴等が、命を捨てに来る場所さ。

男がそう鼻で笑う。
そうして一同は銀行についた。

「サンキュー。

ニウに男が答える。

「どういたしまして。ここは物騒だから気を付けろよ。じゃあな……

男と別れたニウは、しばらくバックパックの中身をごそごそとかき回していたが、やがて悔しそうに大声を上げる。

「やられたっ!

「どうした?

「財布がない!

「あの野郎、ふざけやがって!

「俺のことか?

ニウたちが見上げると、そう答えた男はグラス片手に銀行の屋根に腰掛けていた。
もう片方の手で、女物の財布を、お手玉して遊んでいる。

「あーっ、あたしの財布!てめー盗むんじゃねー!返せよ!

「人聞き悪いこというんじゃねーよ。他のやつに取られないように、ここまで守ってやったんじゃねーか。
「感謝しろよ。まあ護衛料は、もらっといたけどな。

「ざけんじゃねーぞ!頼みもしないことすんじゃねー!

「……ニウ……他人の事は言えんぞ……

と、発泡斎。

「ほらよ。

男はニウに財布をほうり投げた。ニウは急いで中身を確認したが、半分しか残っていない。

「この薄汚いコソ泥野郎!

「失礼な言い方だな。こう見えても俺は悪人と金持ちからしか、取らないんだよ。
「で、あんたはワルだが、ビンボーだから、半分だけもらった。

「あたしがビンボー人に見えるか?

「まさかお嬢様とか言わないよなあ。

男は冗談は止めてくれとばかり。
しかしニウは完全にキレている。

「昼間から酒なんか、かっくらってんじゃねーぞ!

「酒じゃない。

男はグラスの残りを一気に飲み干してから言った。

「グレープフルーツジュースだ。

「まったく、あの野郎、ふざけやがって……

ニウはまだ怒っている。

「まあ授業料と思って、あきらめるんじゃな。

対して発泡斎は冷静だ。
ニウと発泡斎は、酒場に戻ることにする。

「情報収集は、まず酒場からじゃよ。

ふたりは酒場に入った。

「いらっしゃいませ。

「この酒場に、誰か情報通の人いるか?

ニウが切り出す。

「それなら一番奥にいる御老人が詳しいと思います……Sionちゃーん!ご案内して!

「はーい!

若い女が奥から出てきた。
店員らしいが、それほど場慣れしている訳ではなさそうだ。

「Sionっていいます。

「ここに勤めとるのかの?

「昼間は薬屋なんですけど、お酒も売ってる関係で、夜はここでアルバイトしてるんです。

「そりゃ大変じゃろう。

「実は、カレがここの常連なので、半分はデートなんですはぁと

若い女と発泡斎のやり取りの後、三人は酒場の一番奥に向かった。
そこでは、いかにも手先口先だけは達者そうな老人が、独りで酒を飲んでいる。

「ダーリン、お客様よ。

「……に、兄さん……

「……え?

と、ニウ。

「珍幻斎兄さん!

「兄さん、また若い娘つかまえて……よくやりますね。

「おぬし、よく人のことが言えるな。隣りのネーちゃんは、ひょっとして聖職者か?

「そうです。

「見た目だけですけどね……

二言目は声を落とす。

「うらやましい……わしもいつかは聖職者相手にいろんな事してみたいのう。

「いつだって、いろんな事してるじゃないですか。

「わしは聖職者フェチなんじゃ!

「……Sionちゃん、大変じゃろ?こんなエロジジイ相手じゃ。

「あたしは別に変なことさせませんから。

「Sionちゃん、そりゃないぞい。もういい加減チューくらいしてくれても……

「……ところでじーさん、ここに出入りしてる、ジュース好きの盗っ人野郎知ってるか?

と、ニウが割り込み、勝手に切り出す。

「Juiceのことか?あいつがどうした?

「あたしの財布盗みやがった!金も半分取られたんだぞ!

「はて?あいつは女から取ったりはしないはずじゃが?

「嘘じゃねーよ!見ろ!この財布を!

「わしが財布を見てもしょうがないと思うが……ん?何じゃこれは?

珍幻斎が財布の中を指差した。覗き込むと、底の方に何か縫い付けてある。
剥がしてみると、盗まれたはずのお金と、走り書きしたメモが出てきた。
メモの内容は――

『次からは気をつけてネはぁと――怪盗Juice様より

「……あのヤロー!どこまでもナメやがって!最後の『ネ』が、カタカナなのがムカツクゼ!

「……で、本当は何が聞きたいんじゃ?

「実は、消えた王女様についてなんですが……

発泡斎が尋ねる。

「ああ、それならSionちゃんの方が詳しいぞい。

「アンタ、王女を知ってんの?

「人から聞いた話なんですけど……

ニウの問いにSionが答えた――

王女様がダンジョン――どこのダンジョンかは、分りません――にいるという情報を得て、さっそく捜索隊が派遣されました。
でも、ダンジョンから生きて帰って来れたのは、ただ一人の兵士だけ。
その兵士も、まるで抜け殻のようでした。

「王女様はどうした?

周囲の問いかけに、男はうつろな目で答えました。

「王女様は……もう帰る……

そこまで言うと、男は突然苦しみ始めたのです。
そして、そのまま死んでしまいました。

もちろん王女様は未だに帰ってきません。
兵士が余計なことを言ってしまったために、王女様は、逆に帰れなくなってしまったのではないかという、もっぱらの噂です。
その後、別の捜索隊がダンジョンをくまなく探したけれど、王女様は遂に見つからなかったそうです――

翌朝、ニウと発泡斎は、ジェロームのテレポーターの前にいた。
ジェロームは三つの島で構成されており、テレポーターを利用すれば、船を使わなくとも他の島へ移動することが出来る。
一番大きな中央の島と、南の島は、普通の南国の街であるが、北の島だけはジャングルがあるだけで、目立った施設は何もない。
しかし、この島は有数のトレハンポイントであり、財宝を求めて訪れる物が後を断たない。
だが、凶悪なモンスターが彼らの前に立ちはだかり、多くの者が命を落とすという。
そのモンスターを倒すのが第一のクエストなのだ。

「今日はとりあえず下見じゃ。

そういう発泡斎にニウが尋ねる。

「モンスターって何だ?

「どうやらヘビらしい。

「ヘビかよー!ヘビは勘弁してくれよー。爬虫類苦手なんだよなー。

「王様の依頼じゃから、仕方ない。さあ、行くぞ。

テレポーターに乗ると、一瞬の浮遊感の後、新しい世界が眼前に広がる。
そこは小さな村だった。牧場の向こうに密林が見える。
目の前には、可愛いリボンとエプロンを身につけた女性が、テーブルの上に山積みになった弁当を売っていた。

「いらっしゃいませ。りんなの仕出し弁当はいかがですか?ここから先は何もありませんので、ここで食料調達することをオススメしますはぁと

「弁当か。どんなのがあるんじゃ?

発泡斎は興味深々だ。

「こちらが呂布弁当です。食べると人を裏切りたくなります。

「そんなの食ってどうすんだよ!

ニウが突っ込む。

「敵に食べさせるんです。

「なるほど。今のところ敵はおらんから、別にいいわい。

「面白そうだから食ってみようかな。

「お前はそんな物食わんでも裏切るじゃろう。

発泡斎の勇気ある発言だったが、ニウの左ストレートをまともに食らって、発言撤回する羽目になった。

「こちらは劉備弁当です。人がついてくるようになります。

「ストーカーか?

と、ニウ。

「違うじゃろう!カリスマになるということじゃ。

「そんな物食わなくてもこのジジイはアタシについてくるぞ。

「うっひゃー!
「……元々ついてきたのはおヌシじゃろう。しかも金まで取りおって(TT

「他には?

「こちらは諸葛亮弁当です。

「アタマが良くなるのか?
「……うへっ!サカナばっかり。サカナ嫌いなんだよなあ……

「魚食わんのか。どうりで……わ、わかった!殴らんでくれ!

「では、こちらはいかがでしょう?甘寧弁当。弓がうまくなりますよ!

「弓か……別に持ってないしな。でも戦闘能力上げとくのは良いことだな。
「よし!これに決めた!

「ワシは諸葛亮弁当で、INTを上げることにしようぞ。

「ありがとうございました。またお越しくださいはぁと

ニウたちは弁当屋を後にし、北に向かった。
二人の姿が見えなくなったところで、りんなは呟いた。

りんな「――生きて戻ってこれたらですけど……」